シオンと世界の命運を賭けた戦いから、早いもので既に1年以上の月日が流れた。
ダナとレナは融合し、新世界へと生まれ変わった地で、アルフェン達は西へ東へと奔走する日々を送る。
成した事への責任を果たし、いまだレネギスに住まう人々をこの地へと迎える準備を行う。
一つの区切りとして行った演説は、皆が皆納得出来るものではなかっただろうが、それでも効果のほどはあった。
本当に少しずつではあるけれど、世界は変わりつつある。
「サクスリオ聖堂だったよな…」
束の間、仲間たちとの再会を果たしたあの演説の日から、数ヶ月。
今、アルフェンとシオンはガナスハロスは首府、ペレギオンを訪れていた。
ティルザからの要請があり、物資の調達やはぐれズーグル退治を行い、今は自由時間。
シオンと共に過ごすつもりだったのだが、アルフェンはその彼女から時間を指定され、今はサクスリオ聖堂へと向かう途中。
後でね、と告げた彼女は何処か楽し気で、場所も場所なだけに何が待っているのか少々気持ちが浮つく。
先日漸く、これまで阻まれ続けた“ある言葉”を彼女へと告げることが出来たばかりだというのも、アルフェンを浮つかせる要因でもあった。
各所への根回しは一通り済み、あとは必要な物を取り揃えていく段階。
浮つきながらもまだ実感がないのは、それだけ長く“想い”を伝えることを阻まれたからだろう。
それでも、シオンが楽しそうに、また、嬉しそうにアルフェンを翻弄してくれたもので、その期間も今思えば悪くなかったと、そう考えられるようにもなっている。
「シオ、ン―――」
「アルフェン」
これまでの日々の事を想っていたら、早くシオンに会いたくなり、足早にサクスリオ聖堂へと急ぐ。
周りなどあまり見ていなかったので気付くのが遅れたが、いつもは賑わっている周囲がとても静かだ。
まさかシオンが人払いしたのか、そう疑問を抱きながら、サクスリオ聖堂の扉を開き、中に居るであろう恋人へと声を掛けようとして、そこに佇む彼女の姿に、息を呑む。
まだ陽の高い、昼下がり。
ステンドグラスに光が降り注ぎ、微笑む彼女を照らす。
「もう、またなの?」
「あ…その…それ…」
その、あまりに神聖な姿は、まだ出会ったばかりの頃、着替えた彼女を目にした時の比ではない程に、美しい。
言葉なく凝視するアルフェンに、シオンは少々照れくさそうにしながらも声を掛けてくるのに、ハッとしてゆっくり、歩を進めた。
「ずっと仕舞い込んでいたでしょう? 綻びを、直してもらったのよ」
レナに渡った先、テアフォル=ヘルガラヒで手に入れた、装備の一つ。
しかし戦う上での機能性は悪いと仕舞い込まれ、何時しか忘れていた服。
「どうかしら?」
「すごく、似合ってる…綺麗だ」
シオンは近付くアルフェンを見つめたまま、問いかける。
その問いかけに、アルフェンは彼女の傍まで歩み寄り、純白の手袋に包まれた手を取って、告げた。
白を纏った、愛しい人。
その隣りに立ちアルフェンは、今日の装いをガゥム=アーサリスにしておいて良かったと、思う。
並び立っても引けを取らないはずだ。
「ふふ、ありがとう。当日、皆に見てもらうのは別の意匠になるから…折角ならあなたにだけ、見せたかったの。着てみたいとも思ったのよね。レナの、婚礼衣装」
「独り占めできるなんて、光栄だな」
アルフェンの想いを一身に浴び、愛を知った彼女は日々その可憐さを増しているように感じ、そしてそれを惜しみなく、自分へと向けてくれる。
「シオン、」
だから、何度だって伝えたいと、思う。
今溢れる、この想いを。
衣装を崩さぬよう、しかし触れずにはいられないと、身を少し屈めて手にした指先へと口付けて、告げた想いに鐘の音が被ることも気にしない。
だって、彼女にはしっかりと、届いていることがその表情から、見て取れたから――――
