本日、快晴 - 1/3

本日、快晴<朝>


「わぁ、シオンの水着、おしゃれだねぇ!」
「そ、そうかしら…それを言ったら、リンウェルの水着はとても可愛らしいわ」
シオンと世界の命運を賭けた戦いから、早二年。
一つになった双世界での問題は山積みだったが、英雄と呼ばれたアルフェンと領将であったテュオハリムの働きにより多少なりと時間が掛かりはしたが世界は落ち着きつつあって。
一年を越えた辺りからダナ・レナといった括りが曖昧になり、それぞれがそれぞれの良き点を取り入れるまでになっていた。
そして、古い文献から以前は存在したと思われる娯楽施設を少しずつ増やしていっている。
元々存在していた温泉は、シスロデン以外の地にも造られつつあり、レナとダナの装飾技術を兼ね合わせたショッピング都市“メランジュ”なるものが出来るほど。
そして今日、かつては英雄と呼ばれていた彼らは。
新たにできた娯楽施設”プール”というものに遊びに来ていた。
「シオンは、アルフェンと水着を選びに行ったんだったか」
「ええ…その…あまり露出の高いものは選ばないで欲しいと言われて…」
「シオン真っ赤! 可愛い~!」
「か、からかわないで! そ、それに、リンウェルだってロウと選んだんでしょう」
男女別になった更衣室、それぞれに着替えた水着を見て。
三人は感想を言い合い、水着を選んだ時のことを話し出す。
シオンは当時のことを思い出したのか顔を赤くし、リンウェルが体を揺らして可愛いと言えば。
「え、私たちはたまたま! たまたまだよ! 別に約束したわけじゃないから!」
「リンウェルも可愛いことになっているぞ」
「もう! そういうキサラは!? その…とっても、目のやり場に困る感じだけど…」
「そうか? まぁ、私は店員に進められるまま選んだだけなのだがな」
反撃するようにロウの名前を出され、動揺してこちらも赤くなる。
なんとも微笑ましい光景にキサラが笑えば、話の矛先は彼女へ。
プロポーションがいいだけにとても似合っているが、普段を考えたら刺激が強いのは確かだろう。
「テュオハリムの水着も、キサラが選んだんでしょう?」
「ああ、あの人は多忙だからな。一応、似合うと思って選んだんだが…どうだろうな。実際にはまだ見ていない」
「それじゃあ、早く行こっ! きっと男共の方が早く着替え終わってるよ」
三人は施錠のできる荷物置き場に着替えを入れ、きっと待っているだろう彼らの元へ向かうべく更衣室を後にした。

「いや、あの…本当に、人を待っているから…」
「まだ来ないなら、一緒に遊びましょうよ!」
「…これが、ナンパ…」
「ふむ…」
三人が更衣室を出て、男性陣の姿を探すべく歩き出そうとすると。
聞き慣れた声がし、すぐ近くにいたのだとそちらに目を向ければ。
見知らぬ女子に話しかけられ、困っている様子のアルフェン、明らかに傍観しているテュオハリム、その隣で固まっているロウ、という三者三様の姿を見つける。
「………」
「ああ…」
「こういう場は、人を開放的にするのかもな」
色めく女子は、これまた彼らと同じく三人なところを見るに。
アルフェンだけが声を掛けられているわけではないとわかるが。
対応させられているのがアルフェンだという事実が、シオンにとっては面白くない。
「シ、シオン?」
「…仕方がないから、助けてあげましょうか」
「ふっ…そうだな」
据わった目をするシオンに恐る恐ると声を掛けるリンウェルに。
にこりと笑って、先陣を切るシオン。
その後ろ姿の勇ましさに笑いながらキサラが続き、追いかけるようにリンウェルも彼らの元へと向かう。
「二人もなんとか ーーー!」
「アルフェン、彼女たちは知り合い?」
「シ、シオン!」
後ろから近付いたからだろう、全然気付いていないアルフェンに。
シオンは声を掛けると同時にその腕に抱き着き、彼を見上げる。
「テュオ、傍観するくらいなら助け舟を出すべきですよ」
「キサラか」
キサラはテュオハリムの隣に立ち、困ったように彼を窘めて。
「もう! 鼻の下伸ばしちゃって!」
「うわっ! リンウェル! これはちがっ!」
リンウェルはロウのフードを引っ張り呆れた声を出した。
「あ、えっと…私たち…ごめんなさい!」
その、まるで声を掛けていた女性たちに見せつけるような行動は。
効果覿面だったようで、顔を赤くしシオンたちの前から走り去った。
「シオン、その…」
「わかっているわ。私が面白くなかっただけよ」
「それならよかった…ところで、その…これ、えーっと…胸、が…」
見られたことによる気まずさか、何か言おうとするアルフェンに。
わかっていてやっているのだと教えれば、安心したように笑みを見せてくれる。
それだけで面白くなかった気持ちはどこかへ吹き飛んだが、次いで言われた言葉に。
今の自分の恰好と、まるで押し付けるように彼の腕を抱いていたことを思い出して。
別にアルフェンが悪いわけではない。ないのだが。
気付かぬふりくらいしてくれてもいいではないか。
「!! ばかっ!!」
「あ、シオン!」
途端に恥ずかしくなったシオンは、掴んでいたアルフェンの腕を離して走り出す。
しかしそれはアルフェンにとって予測できた行動なのだろう。
素早く彼女の腕を掴み、その歩みを止めさせた。
「この人混みじゃ危ないから…こう、な」
「~~~」
そのままシオンと自身の指先を絡め、自然な動作で恋人繋ぎをするのだ。
「……なぁ、俺ら忘れ去られてね?」
「いつものことではないかね?」
シオンもシオンで真っ赤になりながらそれを解こうとしないし、ここが何処かも忘れているのではないだろうか。
「いつものことだけど…いいんだけど…もー!!」
「二人はいつまで経っても微笑ましいな」
「…あまり見ないでくれ…」
そんな会話が、二人にも届いたのだろう。
シオンは居た堪れないのか、手は繋いだままにアルフェンの背へと隠れてしまって。
四人の視線を一身に浴びるアルフェンもまた、耳まで赤くしていた。
「はー、暑い暑い! 俺らプールに来たんだよな! 泳ごうぜ!!」
「競争でもするかね?」
「そんなに広くないんですから、やめてください…」
「泳ぐのもいいけど、あっちのウォータースライダーに行ってみない? 二人で乗れる乗り物で滑り落ちるんだって!」
まったくもって、いつもの光景。
二年経つのに何時までも付き合いたての恋人のようなアルフェンとシオン。
これには、仲間たちだってついついからかってしまうし、見守りたくもなる。
同時に、あてられているのかもしれないが。
「えーっと…シオン、俺たちも行く、か?」
「ええ…」
四人が動き出しても、アルフェンの背から出れずにいたシオンは。
アルフェンに呼びかけられたことで彼の隣に並び、未だ赤い顔を前へと向ける。
彼も同じように赤くなっているのだし、仲良くお揃いだ。
「折角来たんだもの、遊び尽くすわ」
「ははっ…そうだな、楽しもう!」
本日、快晴。
日照りは心地よく、煌めく水面は美しい。
こんな日は、遊び尽くしてこそだろう。
シオンはアルフェンと繋いだ手を一瞥してから、前を行く仲間たちを追いかけるべく歩き出すのだった。