灰青の花 - 8/9

灰青の花


「これ、私には可愛すぎないかしら…」
「そんなことないよ! とっても似合ってるもん!!」
エリデ・メナンシアは首府、ヴィスキント。
シオンは今、洋裁師の女性が作ってくれた衣装を身に纏っていた。
それというのも、リンウェルがツグリナと共に解読している古文書の中に新たな絵本を発見したことが起因する。
ハロウィンの次は、クリスマスなのだとか。
12月の寒い時期に行われる、お祭りごと。
食卓にはケーキが出され、子供は白髭に赤の衣装が特徴的なおじいさんにプレゼントをもらえる。
大人たちはそれぞれにプレゼント交換をするのだとも書かれていたとか。
それを聞いたテュオハリムが、是非その衣装を作ってみて欲しいと洋裁師を呼んだのだ。
しかも、折角ならば男性用だけでなく女性用も作るべきかと思い至り、服にこだわりのあるシオンにも意見を求めたいとの要請が。
お礼は仕上がった衣装でどうだと言われ、それならばと頷いたことで、今に至る。
しかし、意見しておいてなんだが、可愛すぎではないかと。
付き合ってくれたリンウェルに見てもらいながら少々恥ずかしくなってきた。
赤が基調なので派手になりそうなところを、白いファーを付けることで落ち着かせ、スカートには金色で薔薇をあしらってもらい、丈は膝上程。
可愛らしさと動きやすさを重視したデザインである。
「本当? それなら、いいのだけれど…」
「寸法も問題なさそうだから、このまま持って行って大丈夫よ。私はこれから量産していくわ」
「よろしくお願いします!」
リンウェルが絶賛してくれるのなら、いいかしらと。
シオンは姿見の前で今一度自分の全身を見て、洋裁師が持って行っていいというので一先ず着替えることにする。
クリスマスと呼ばれる日程は、もう少し先。
シオンはこの衣装を纏い、アルフェンにあるプレゼントを贈る計画を立てていた。

「アルフェン、メリークリスマス」
12月24日、絵本で言うところのクリスマス。
日中はお祭り騒ぎのヴィスキントで絵本を元に作ったというクリスマスツリーを見たり、再現してみたという料理を食べ歩いたりして。
暗くなってから、明かりが灯され華やかになった景色を一通り楽しんでから、家へと二人、帰ってきた。
キサラが持たせてくれたクリスマスケーキを食べて、一緒に入るかと問うアルフェンを先に風呂へと追いやり、彼が出てくると見るや例の衣装を手に持ち緊張しながらゆっくりと湯に浸かる。
アルフェンに少々浮かれ気味な衣装を見せるのだと思ったら心配になってきたが、シオンが着るものをいつも褒めてくれる彼のこと。
大丈夫だろうと衣装を身に纏い、ソファーに座るアルフェンの前へと進み出て、本日街中で何度か口にした言葉を彼に向けて放った。
「…それ、完成したって言っていた衣装か。可愛いな」
風呂から上がったシオンの姿を認めたアルフェンは、その衣装を眺めるように視線を巡らせ、しっかりとこちらの目を見て微笑んでくれる。
お世辞など言えない彼の、率直な感想を嬉しく思う。
「私から、あなたへプレゼントがあるの」
「プレゼント?」
クリスマスにはプレゼントを贈り合ったりするものらしいが、それはあくまで絵本のお話。
別段、そんな予定も立てていなかったからだろう、不思議そうにこちらを見つめるアルフェンに、シオンはゆっくりと近付きその膝の上へ乗り上げる。
スカートがめくれるので少々恥ずかしくはあったが、座っている彼に近付くには手っ取り早い。
「あなたに、“アイメリス”の家名をあげる」
アルフェンがシオンの好きにさせてくれるので、その首に腕をまわしてしかと瞳を見つめ、考えていた言葉を口にする。
「シオン…それは…」
「受け取ってくれるかしら?」
言葉の意味を正しく読み取ってくれたのか、瞳を見開くアルフェンに。
顔が熱くなるのを感じながらも、笑みを浮かべて返事を促す。
「勿論だ。嬉しいよ」
そうすれば、アルフェンはシオンの腰を引き寄せて、力強く、抱きしめてくれるのだ。
是の返事がもらえると信じてはいたが、緊張もしていたので、その腕に抱かれたことに安心する。
なんとなくタイミングを逃してしまっていたが、これでようやく。
「実は、俺からもプレゼントがあるんだ」
「え?」
すっかりと力が抜けてしまったシオンがアルフェンへと凭れていれば、肩を抱かれて再度向き合うようにされて。
彼はポケットへと手を入れ、小さな箱を取り出した。
「シオンが衣装作りを手伝っている間に、作っていたんだ。受け取って欲しい」
「…これを…あなたが作ったの…?」
シオンを抱いている手はそのままに、片手で器用に箱を開けるアルフェンの手元を眺めて、驚く。
なにせ、そこから出てきたのは指輪なのだから。
「一生モノだからな。誰かが作ったものではなく、俺が作ったものを渡したかったんだ」
「嬉しい…嵌めて、くれる…?」
シオンが“アイメリス”の家名を彼に贈ろうと決めた日に、アルフェンからは指輪を貰うなんて。
二人して、同じようなことを考えていたのだとわかって、喜びに震えながら左手を差し出す。
「喜んで」
アルフェンはシオンの希望に添って、左手の薬指へと指輪を嵌めてくれる。
シオンのサイズぴったりの、灰青の鉱石が埋め込まれたそれ。
アルフェンの瞳を思わせるその色は、シオンが彼のモノであるという証明にも思えた。
「素敵だわ…すごく、嬉しい」
「シオン、今以上に、幸せになろう」
「ええ! それにはまず、式の日取りを決めないとね」
喜ぶシオンに、彼もまた、幸せを滲ませる笑顔を返してくれる。
これから先も、アルフェンと生きていく。
恋人ではなく、家族となって。
そのためにも、決めなければいけないことが沢山ある。
だから真っ先に思い浮かんだことを口にしたが、今は。
ただ目の前の愛しい人の体温を感じたいと、改めて抱き着いたのだった。